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ハービー山口「Children in Brixton」 1987
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第02話 『写真家になる日』

 僕が生れて初めて買ってもらったカメラは、フジペットという6 X 6判の子供向けの安価なカメラだった。小学生だった当時は写真家になることなど思いもよらなかった。中学2年の時、クラスメートに勧められるまま写真部に入った。美術の成績も悪かったのに一枚の写真を残す事に魅力を感じた。父の使っていたキャノン7というレンジファインダー機がもっぱらの相棒だった。中学3年から高校に入る頃には、僕の夢は写真家になることに固まっていた。始めて自分の意志で買ったカメラは、親に借金をしてやっと届いたニコン F だった。最も優れたプロ機を所有することで、「もう、後戻りはしないぞ」という自分の決意の確認につながっていた。このカメラが何をしていても、どこへ行っても僕の誇りだった。

 ライカを買ったのは 30 才を過ぎてからだった。当時僕はロンドンに住んでいて、写真仲間のほとんどがライカユーザーだったのだ。ブラッククロームの M4 と 35 ミリを手に入れた日の興奮は今もって鮮烈に憶えている。このカメラで人生を撮ろう、このカメラでなら人生が撮れると直感した。以来何台かのカメラが僕の手の中にあった。ローライフレックス、他の中判カメラ、最新デジタル・・・。それぞれのカメラはそれぞれの得意分野を持ち、僕を支えてくれた。

 良いカメラとは自分に勇気を与えてくれるカメラだ。良いカメラに出会うことは素晴らしいことだ。だが、それ以上に大切で素敵なことがある。それは、心からこれこそ撮りたいと思う被写体に巡り合うことだ。

 写真家になる日とは、カメラを買った日ではなく、撮りたいと思う被写体に出会った日なのだと確信している。