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TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 > 第71話 『一生を写真に捧げる』

第71話 『一生を写真に捧げる』

日本で初の女性報道写真家 笹本恒子さんと二人写真展とトークショーを行った。 笹本さんは今年96歳になられる。いまだお元気で、昨年はニューヨークへ行って撮影をこなしてきた。
ニューヨークに住む日本人の女性達のポートレイトを撮っていらしたのだ。被写体に なったお一人に、自衛官出身で、ニューヨーク市警の婦警さんをなさっている方がい たそうだ。英語を一種懸命マスターして、難関の採用試験にパスされ婦警さんになられたそうだ。凄い日本人が世界にはいるものである。

さて、笹本さん、今年の日本写真協会賞功労賞を受賞された。これまでにダイヤモンドレディー賞、そして今年、吉川英治文化賞を受賞されたが、写真団体からの受賞は初めてのことだ。25歳でプロの写真家になり、実に70余年の歳月が流れての受賞である。僕も同協会から恐縮にも作家賞を頂戴したので、写真展のサブタイトルに「こうなったら私共、一生を写真に捧げるつもりです」という一行を付けた。

トークショーの打ち合わせで、笹本さんのご自宅のマンションを、ギャラリー・コスモスの新山さんと二人で訪れたのは7月の初旬であった。 昨年、老人ホームに入居するつもりだったお金で、部屋をリフォームされたそうだ。 お陰で小さく区切られていた部屋は広々とし、10階からの眺望は風通しが良いのも手伝って実に爽快であった。 笹本さんは笑顔が良くお似合いで、「冷たいものを持って来ましょうね!」と仰って台所に消えさり、グラスとミネラルウォーターのボトルを持っていらっしゃるお姿は、老いた感じなど全く無いどころか、スカートをひらひらさせ、まるで少女の立ち振る舞いを見ている様であった。

テーブルの上には、デジタル一眼とコンパクトデジタルカメラが置かれていた。さすが現役写真家である。
「デジタルの機械は良く分かりませんけど、なんとか使っているんですよ、、。」
耳が遠いなどということも一切なく、張りのある声が部屋に広がった。
「お疲れになるから、トークショーは最長で一時間程で終了ということで宜しいで しょうか?」
「いえ、私がトークショーをする時は、一人で1時間半でも喋ってますから、ご心配なさらずに」
なんというパワーだろうか。

彼女と僕の二人展は、ギャラリー・コスモスで7月12日にオープンし、トークショーは翌日の夕刻6時に始まった。
400席もある会場はギャラリー・コスモスから徒歩5分のところにある目黒区の立派な施設である。
当日の入場者は200名弱といったところだった。
お客さまの中には、トークショーの始まる前に、ギャラリーにもお立ち寄り頂いた、 元法務大臣、現日本カメラ財団理事長の森山眞弓さんもいらした。 ギャラリーでは、笹本さんと森山さんの並んだお姿がことさらに印象的であったが、 ほんの数分、僕との会話もあった。 「人に希望を与える様な写真を撮りたいと願っております」とだけ申し上げた。森山さんは、僕の写真を眺めながら、「あなたの様な写真家がいないと困りますね。」と 一言仰った。
それだけで充分だった。

さて、トークショーが始まった。
ステージには、笹本さんと僕の二人だけである。司会進行は僕に全て任されているのである。
場を固くするのは僕の好みではない。「冗談も言いますが、お許し下さい」と事前にお伝えしてあったので、その辺りを良く笹本さんは汲んでくれていて僕のお笑いに付いて来て下さった。
「私がハービー・山口ですので、本日は笹本先生に洋風のお名前をお付けしたいと思いますが、先生のお名前は恒子さまですから、まずツッチー笹本、あるいはスージー 笹本、アンジー笹本などを考えたのですが、、。」
「ほっほっほ! アンジーが語呂がよろしゅうございますね、、。」
「そうですか! では、本日からアンジー笹本ということで、。」

話題は健康、そして写真についての二つに分かれてトークは進んだ。

毎晩、赤ワインを170CC、お飲みになるそうだ。そしてお肉も大好き、お野菜も好きで、一人暮らしの笹本さんは、今でも3食をご自分で料理していらっしゃるそうだ。 「80歳までテニスをしておりましたね。あと歩くのが好きなもんですから、良く歩きました。」 「最近、私の聞きかじったことなんですけど、消化器系が強いと体の他の部分も強いらしいんですね。あと良く噛むことで唾液と食べ物がよく混ざって、体によいらしいんですが、笹本さんの歯はお小さい頃から丈夫でいらしたんでしょうね。」
「いえ、歯が丈夫ということはありませんでしたね。家族の中で一番私が歯医者さんに通っていました。」
「えっそうなんですか!私の話の進行の思惑が全くはずれてしまいましたね。」
「ほっほっほ、、。」

写真の話に話題は移った。

「これから何を撮りたいかというと、無名であっても、立派に世の中のお役に立っている人たちにカメラを向けたいですね。 最近の傾向だと思いますが、写真の基本を学ばず、ただ崩すことばかりの作品も多く見られますね。それは残念です。 若い頃、私は油絵を描いておりましたから、シュールな絵画も沢山見ましたし、前衛の生け花にも衝撃を受けました。 ピカソだって、若い頃はちゃんと写実の絵を描いていたんですから。」

今の社会に一言頂けますか。
「戦後、何も無くなってしまった日本をここまで再建したのは、今の70代や80代の人達です。その人たちを後期高齢者と呼んで、社会の隅に置いてはいけません。何でも手に入る今の社会に甘んじている人がいるとすれば、日本を再建した人たちに申し訳ないですよ!」
優しい表情と凛とした表情が僕のすぐ横でくるくると変化しながらきっぱりとおっ しゃった。

お客様からの質問の時間も入れ、2時間弱、実に明快なトークショーだった。 質問をして下さったお客様の中には、僕が翌日撮影をする予定の歌手の由紀さおりさんもいらしていて、舞台にも登場して下さり笹本さんと握手をして花を添えて下さった。 沢山の方々が舞台前に来て、我々を取り囲み、写真を撮ったり、さらに質問を続けた。 「私の母は70代なんですが、何をしてあげれば一番良いのでしょうか。」と一人の 女性が問いかけた。 「70代はまだまだ若いです。好奇心を持つことが大切だと言って差し上げてね!」
この写真展をご覧になったりやトークショーに参加し、直接ご本人にお会いした方は、「生きる勇気」を笹本さんから多いに頂いたのではないだろうか。

それから10日後、写真展最終日の夕刻、笹本さんは会場にお越しになられた。 お召しになっている白地に黒の柄の入っているワンピースが素敵だったので、どこでお買いになったのかと尋ねてみた。
「これですか、実は、テーブルクロスを買って来て自分で縫ったんですよ。ほっほっほ!」と、恥ずかしそうにされながら可愛らしい笑顔を浮かべた。

彼女の若さの秘訣は、この好奇心と、創作意欲と80歳までテニスをし、良く歩いたということから分かる様にまめな生活習慣である。 実は、打ち合わせの時、僕の家内の提言で明るい色の花束を持って笹本さんのご自宅に伺った。そのお礼にと、TOMMY HILFIGERのポロシャツを後日頂き、また、打ち合わせの資料として僕の写真集を3冊、むき出しで持って行ったのだが、返却して頂いた 時には3冊が奇麗に白い紙で包装されていた。 包装紙を破くのがもったいなく思えてならなかった。

この気遣いである。 96歳にして今なお現役の写真家。 60代、70代はまだ小僧である。このお方から、我々が学ぶことはもっともっとあるに違いない。

最終日もいよいよ大詰め、僕の高校生の次男が自転車に乗ってギャラリーにやって来たので、笹本さんに紹介した。 その次男に笹本さんは、こう話して下さった。 「何度転んでも起き上がる精神が大切ですよ! ブラジルの鉱山に何人もが閉じ込められたでしょ、あの中に、真っ暗な坑道の中を毎日5キロとか10キロ走り続けていた人がいたのね。その人がニューヨークマラソンに参加したんですって!どんな絶望の中でも希望を持つことね!」 笹本さんが、僕の次男を通して、今の若い世代に仰りたいことなのだろう。
笹本さんが、ギャラリーからお帰りになるタイミングで、僕は笹本さんの著作を購入しサインをお願いした。

T, Sasamotoと英字で書かれたサインと共に、
「ハービー・山口さまへ、詩情豊なお作品をいつまでも、、、。」とあった。