カメラケースの製作工程には、裁断、コバ漉き、 ねん押し、縫製、底の返しと底縫い、磨き・コバ塗り、金具付けという段階がありますが、ここではこれらすべてを手作業で行っています。 「手作業の良さは、細かいところまで心を込めて作れるところ。そうすることで機械にはない温かみが出てきます。手間はかかりますが、手間を かけるから良いものが出来るんです」 と語る二代目。そのこだわりの精神は、使用する機械にもあらわれています。裁断に使うのは、その形状から“ダルマプレス”と呼ばれるプレス機。昭和28年頃に製造されたもので、現在この機械を使用する工場はほとんどないそうですが、高さをミリ単位で調節できるうえ、手元がよく見えるので、使い勝手が非常に良いのだとか。この長年使い慣れた機械で、1枚1枚丁寧に型抜きしていくのです。 |
さらに、ケースの底を縫う際に使うミシンも、現在では入手困難な貴重なものです。このミシンは、“ドーリーミシン”と呼ばれる、50年ほど前のドイツ製。もともとは製帽用だったのを底縫い用に改造したもので、なんと針が下から出てきて、縫うと表は糸が1本に、裏は2本になるという特殊なミシン。鋳物で出来ていて、オブジェとして置いておいても美しい、もはや骨董品といえるものです。 |
こだわりは機械だけにとどまりません。使用する素材にもあらわれています。革のへりにニスを塗るコバ塗りという工程では、ニスをきれいに塗るために、革の断面を磨く作業を行います。その際、目止め液という化学薬品を使って磨くのが通常ですが、ここでは天然の“ふのり”を使っています。“ふのり”は漢字で“布海苔”と書き、文字通り自然の海草が原料。洗髪にも使用できる人体に安全なものです。このふのりを水で煮て、ちょうどよい加減にするのにも職人の長年の勘が必要です。 「革も自然のものですから、できるだけ天然自然のもので作りたいんです」 と語る二代目。そのこだわりから、妥協を許さない、物作りへの真摯な愛情が感じられました。 |
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完成品。手作業による美しいアールと、温かみのあるフォルムが持ち味。使い込むほどに革が馴染み、しなやかな風合いが出てくる。長く使うほど物の真価が発揮される。
●職人(アルティザン)の手によって一つ一つ丁寧につくられたカメラボディケース