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TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 > 第57話 『ジャンルー・シーフのカフェ・トーク』

第10話 『 元気 』

先のゴールデンウィーク、大阪梅田にある、若者に人気のビルで大きな写真展を開いた。160点以上を展示し、僕の写真史が一望出来るという嬉しい企画だった。
展示期間はたった 8日間だったが入場者数は5602人と上回った。
 僕は初日の前日に大阪に行きこまごまとした指示をさせてもらった。
初日、熱心な方々が数名、 11時の開店と同時に会場に走り込んできた。その後も人の流れは切れることなく、2人、3人と来場者が続いた。思惑通りの平和な空気が会場に流れていた。もっと長く会場に居たかったが、夕方の新幹線のチケットが取ってあったので後ろ髪を引かれる思いで東京に戻った。

 その数日後、会場でゲストを迎えてのトークショーがあったので再び大阪へ向かった。
小一時間のトークショーを無事済ませ、ふと我に返るとどっと疲れがやってきた。 会場に何脚か置いてある椅子に座ってボヤーとしていると、スタッフから「ハービーさんお疲れの様ですね。」と声がかかった。
 東京からの移動、多くの人達に頼まれたサイン、トークショーと休みなく動いていたので仕方ないことだろう。しかし僕は気を取り戻し、ライカの MPをカメラバッグから取り出した。

 お客さんを眺めているとたまに、単純な言い方をするとグッとくるお客さんを見かけるものだ。手をつないで仲良さそうに写真を見つめているカップルの後姿、少し寂しそうにポツンと立っている若い女の子、パンクの恰好をした少年達、僕は彼らに声をかけそっとシャッターを切った。みんないい顔をしていた。恥ずかしそうな顔、安心した顔、思いっきりの笑顔、どの顔も僕に強い刺激をくれた。
写真家の性なのだろうか、一人、二人と撮影するにつれ、僕はみるみる元気を取り戻した。彼らの表情や仕草が確実にライカMPの中に取り込まれているという実感と共に僕は先程の疲れも忘れ、一人の少年に戻っていた。帰りの新幹線の中でも高揚は続いていた。一刻も早く現像しプリントしてみたいと思った。

 やはり写真を撮ること以外、僕を元気にしてくれる特効薬はなさそうだ。