TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 > 第05話 『スナップ』

ハービー山口「恋」 2004
写真の拡大

第05話 『 スナップ 』

街で素敵な光景に出会い、写真を撮りたいと思っても、見ず知らずの人に声をかけられないけど、どうしたら良いか、とよく質問される。これは写真を経験した人なら必ずと言っても良い程、誰もがかかえる問題だ。

先日、アマチュアのカメラマンが集まり、下北沢で撮影会があった。後日、その講評会があり、全員の撮った写真を見た。看板を撮った人、ショーウィンドーを撮った人、路端に咲く花を撮った人、空と電線を撮った人と様々な視点があった。その中で人ばかりを撮っている人がいた。作者は30代になろうとしている女性だった。特にプロ写真家になろうとしている程でもなく、気楽に撮っているのだが、うまい具合に街の人が写っているのだ。駅前に座っている若い男の写真。歩道橋を歩いているカップル。実に被写体の顔が自然だ。僕はその彼女に注目した。「この人達に何て言って声かけてるの?」僕が他の人達の気持ちを代表して質問してみた。彼女の答えは実に単純で、「写真を撮らせてもらえますかって言って、ただカメラを向けただけです。」と笑顔を浮かべた。彼女自身の性格が、実にさっぱりとしていて、自然に笑顔が出てくるのだ。ほとんどの人達が撮られることに応じてくれたそうだ。この彼女の自然体に秘密があるのじゃないか、と思った。まず、自分の心を開くことだ。そこには、素敵だな、だから写真を撮りたい、という全く単純な思考回路しかない。そこに心苦しさも、やましさもない。だから、被写体に選ばれた人は思わず心を開いてしまうのだ。駄目な人は「いや、ちょっとまずいんで・・・。」と断ってくる。そしたら、深追いはせず、「ありがとうございます。」と引き下がればいい。他人の前で、この彼女の様に肩の力を抜いて自然体でいられるのは一つの才能かも知れない。

僕の経験からするとまず、犬を連れた人に声をかけて練習するのが良いと思う。犬を「かわいいですね」とほめれば、飼い主もほぼ喜んでくれる。そして徐々に飼い主にカメラを向けると大抵良い写真が撮れるのだ。そうした撮影を何度か経験するうち、被写体に向けた笑顔を失わず自然体でいられるコツがわかってくるものだ。10人に声をかけて半数がOKしてくれたとしても5枚の作品が撮れるのだ。それを積み重ねていってやがて作品としてまとまってくる。そんなときの充実度はたまらない。

街を歩いているとたまに、これは絶対に撮ったら良い写真になる、被写体の雰囲気も最高だ。正にいま僕が立っている場所がベストポジションだ、という三拍子揃った状況に出会うことがある。そんなときはただ無心でその中に溶け込んでいけばよい。そして何の問題も起こらず、撮影の数秒後、その場面は無かったかの様に消えていく。こんな幸運だってたまにあるものだ。無欲で無心で、透明な心で・・・。ちょっと他人の中に、一歩踏み込んでお邪魔する。今日も笑顔で写真界のヨネスケとなって一枚一枚を積み重ねていこうではないか。