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第19話 『 ブラックペイント 』

なにか寒気がして節々が痛いなー、と思っていたらインフルエンザにかかってしまった。ベットに横になっていても2〜3日はとても辛かった。結局1週間程寝込み、撮影の仕事や打ち合わせをことごとく延期してもらい、大いに迷惑をかける結果となった。健康を損なうと弱気になるものだ。いつになったら、再びライカを握り締め、街のスナップに出掛けられるのか想いを巡らせる日々だった。芭蕉の句、「旅に病んで夢は枯野をかけめぐる」。まさにこの心境だった。街をスナップして歩くのはかなり身も心も健康でないと出来ないものだと改めて実感した。自分の気持ちがポジティブじゃないと顔は仏丁面をしているだろうし、そんな浮かない顔をした写真家に街の人は良い表情を返してくれるはずもない。「写真とっても良いですか!?」と元気な声と笑顔を投げかけ、その結果、「この人なら悪い感じはしないし、まあ撮られてもよいか・・・。」と相手は反応し、撮影は成立する。暗い顔でボソボソ言われても良い反応は戻ってこないだろう。スナップの名手というのは自分の存在を人ごみの中にかき消すか、陽気で人畜無害なオーラを放つか、どちらかを実践しなければならない。いづれにしても細かい神経とエネルギーを要求される行動だ。健康でなければこんなことやる気もしないし、撮りたいものも発見出来ないだろう。

さて、1週間のリタイヤのお陰で、折角、目黒の「ART PHOTO SITE GALLERY」で3月末まで開催している個展に顔を出す約束をやはりキャンセルしなければならなかった。毎週土曜日の午後、僕がギャラリーに居るのを楽しみにして会いに来て下さる方々が多くいらっしゃるのに、無駄足を踏ませてしまう残念な結果となってしまった。作者に会うと作品が身近に感じられる様になって良いことづくめなのだ。3月は最終週まで頑張って土曜日には在廊しようと思っている。

ところで良いこともあった。インフルエンザにかかる直前、あのライカMPを間近に見る機会を得たのだ。ことの始まりは1月に開いた新宿コニカミノルタでの写真展で、お客さんの中にライカM5にブラックの8枚玉のズミクロン35ミリを見つけたのだ。思わず声をかけ、話が進むと、このM氏、ライカMP,M3, M2,M4のブラックペイント、そして一連のブラックのレンズをお持ちだとか。後日、ライカ好きの人達を集め、これらを拝む会を開いた。特にMPは500万円以上する超レアものだ。カメラ文化の歴史上、一つの頂点が今正に眼前にあるという事実はなんともこころを豊かにしてくれた。そしてあろうことかM氏、ブラックペイントのM4を良い条件で僕に譲っても良いと言い出したのだ。思いもよらない展開に立ちろいだ。ついに僕もブラックペイントのオーナーになるのだろうか。僕が始めてライカを買ったのはM4ブラッククローム。イギリスでのこと、32才の時だった。そのM4は購入から10年弱後、ローマで盗まれてしまった。初めてのライカは僕に写真家に必要な多大な勇気を与えてくれた。果たして、このブラックペイントは?インフルエンザの病床でこのブラックペイントのことが常に僕の頭の中によぎっていた。さて、この M4はその後どうなったか、来月をお楽しみに。