第13話 『 講師 』
ここ数年、街のカルチャースクールというか、写真教室の講師を何度か経験した。受講者は10数名、週一度の講義があり、3ヶ月で全行程が終了する。講師は数名いるので一講師2回の講義を担当する。受講者のレベルは様々で、アマチュア写真を長年撮り続けてきたベテランから、先月カメラを買ったばかりの初心者もいる。このレベルの違う受講者をまとめてスキルアップを図るのが教室の役目だ。3ヶ月間、写真についての様々な内容の講義を聴き情報を得、興味ある人には大変参考になる内容だ。
ふと過去を振り返ると、総じてその3ヶ月で大いに進歩を見せるのは素直な人達だ。きっとその人達は心が真っ白で癖がついてなく、講師の言葉がすんなりと感性にたどり着くのだろう。その結果3ヶ月の間に、自分なりに撮りたいものを見つけ見違える程の写真を撮って来る。
残念なのは、ベテランの中に時に見受けられる頑固型だ。写真を撮る上でのツボを知ってはいるが、その人の写真を何枚も並べてみると、アマチュア写真家の人生で何を一貫してとり続けたいのか、という思想に欠けているのだ。そして、講師の話を聴かない。むしろ自分が正しいと思い込み講師に反発するのだ。たまに時と共に柔軟になる場合もあるが厄介な存在だ。
また、こんな落とし穴もある。こっちのほうが難題かも知れない。
ある女性が恋人のポートレートを持って来た。何の変哲も無い下手な写真だった。彼女は、他に花や空の写真を持って来たが、どれも取るに足りないものだった。3ヶ月後の修了展の写真選考を担当した講師は、苦肉の策で恋人が笑っているカットとしかめっ面をしているカットの二枚を並べたのだ。すると不思議なことに、この二枚を組み合わせることで、どこか哲学的に見えてきたのだ。これは写真が良かったからではない。並べ方の要領が良かったのだ。
もし、これで彼女が満足していたら大いに危険だ。今後も写真の実力はつかず、展示がうまければなんとかなる、と勘違いしてしまうだろう。そのことを講師は厳しく指摘しなければならないが、なにかと指摘しずらいのが実情だ。
店構えも器もセンスが良いがまずいラーメンと、汚い店、そして普通の器だがすごくおいしいラーメンのどっちを選ぶだろうか。ほとんどの人はおいしい方を選ぶだろう。
写真展は、写真の実力と飾り方の両方が問われる世界だ。しかし、まず写真の実力をつけるのが最も大切なのは明らかだ。今後写真表現はますます自由になっていくだろうが、謙虚さと素直さをいつまでも持っていたいものだ。
■写真展
『FLIGHT TO EUROPE』
日 時:2006年9月2日(土)〜9月29日(金)11:00〜19:00 (最終日〜14:00) 入場無料
会 場:ギャラリー冬青
休 館:日曜・月曜・祝日
住 所:〒164-0011 東京都中野区中央5-18-20
*JR中央線・総武線・地下鉄東西線中野駅南口より徒歩12分*
*地下鉄丸ノ内線新中野駅1番出口より徒歩6分*
電 話:03-3380-7123(代)
FAX:03-3380-7121
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