TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 > 第68話 『それぞれの出発』 第68話 『それぞれの出発』 震災後の自粛で、街の明かりは消え、一時はおもてを歩いても人通りがまばらであったが、やっと4月に入り、中止になったり延期されていたイベントが復活してきた。 僕は、先日、自分のホームページで、キャビネサイズの手焼きのオリジナルプリントを100枚限定で販売する告知を出した。一枚5000円で販売し全額を寄付という条件だ。午前中にホームページで告知したところ、19:00時頃には100名に達し、応募を打ち切らせて頂いた。 もう3週間も前になるが、一人のセクシータレントから連絡があった。「お友達と3人で、私たちが出来る事を考えたんですけど、写真を撮って、電子書籍にして、利益を全額寄付出来ないかと、、。それでハービーさんに撮って頂けたら凄く嬉しいんですけど。」 勿論僕は、ノーギャラで撮影する事に同意した。彼女たちが、今自分たちが出来る事を真剣に考えての行動である。僕が役に立つなら断る理由は全くなかった。 彼女たちは撮影の間中、「こんなことして、ハービーさんのキャリアに傷がつきませんか?」とずっと心配していた。 この事をtwitterに書くと、100件近いリツイートがあり、僕にダイレクトメッセージで、「ハービーさんも彼女たちの心意気もすごくかっこ良いです。美談ですね。」という温かく理解して下さった声が多数寄せられた。 4月2日は、最新刊エッセイ集「雲の上はいつも青空」の出版記念という理由で、青山ブックセンターで、そして、4月3日、箱根彫刻の森美術館での個展の最終日には、3月に開催する筈だったトークショーを行った。 「何人集まって下さるか、まったく読めませんが、トークショーを開催出来たら、、。」という主催者の言葉に促され、僕は会場に向かった。 箱根でのことである。 だが、サイン会が終わり周囲を見回して彼らを探したが、彼らの姿は見つからなかった。 「今日、ハービーさんのトークショーに家族で伺った者です。私の息子と主人の写真を撮って頂ける筈でした。しかし、その事情を知らない私は、息子を連れて子供の広場に移動してしまいました。主人から、私の携帯に10回もの着信履歴が残っていました。それに気付かなかった私はとても悔やんでいます。折角ハービーさんに撮って頂ける機会だったのに、主人は本当に悔しかったと思います。その後、落ち込む私を、主人は責めませんでした。それどころか、私の頬にキスをしてくれました。主人の優しさを感じながらも、一人気持ちのおさまりがつかないまま、メールを打っています。」 僕はすぐに返信した。 「ご主人の暖かなキスと優しさが最高のプレゼントだったじゃないですか!東京にいらっしゃる折りにはご連絡頂ければ、撮影させていただきます。」 また、会場に珍しく外国人の家族がいたのでお声をかけさせて頂いた。母国の親戚は帰国しろと言ってくるのですが、私たちは日本にいたいと思っています。 「最近、私の不徳の致すことで、ワイフに悲しい思いをさせてしまいました。もう一度人生をやり直すつもりで、今日家族で箱根まで来ました。遠いこの国であなたが撮って下さった写真が、何か、私の家族の将来を応援して下さっている様に思います。」 この地平には様々な人生がある。不慮の事態に翻弄される人生もあれば、また、弱い我々という人間は様々な過ちを犯してしまう。誰にでも起こり得ることだ。 だが、誰も恨むまい、自らを責める事もしまい。そして人を許すこともまた、人間の勇気なのである。今から、明日のため出来ることを精一杯実行していけば、それは恥じることのない人間ではないだろうか。 |