TOPページ > ハービー・山口の「雲の上はいつも青空」 >第88話 『それぞれの旅』 第88話 『それぞれの旅』ある新型デジカメを使って、ワークショップをすることになった。 門司港の駅はレトロな雰囲気が残されていて確かな旅情を誘うところだ。ここは多くの人が駅舎やホームに向かってカメラを構える名所になっている。 この商店街に再び行ってみた。前回よりずっと空っぽになった感じだった。3分の2以上の店がシャッターを下ろしたまま閉店になっていた。聞くと跡継ぎがいなく、どんどんと店が消えていっているそうだ。それでも10軒以上はまだ営業を続けていて、お店の人に目が合うたびに小さく会釈して奥まで行った。 こうした風情は昭和の面影が見られる貴重なもので、昭和に生まれ育った僕にとっては原風景の一つだ。出来るものならずっと残っていて欲しいと願いながらお店の方の写真を撮らせて頂いた。 ただ、入り口近くの八百屋さんだけは、何度か行ったり来たりしながらそれとなく観察していたが、一人ぽつんともの静かで笑顔もなかった。ぼやーっと遠くを見つめていた。彼の胸中には何が去来しているのだろうか。ずっとずっと前、この商店街が多くの人々で賑わっていて、休む暇もなく野菜を売っていた若かった日々のことを懐かしく思い返しているのだろうか。僕はこの方に向かって頭を下げ、数枚のシャッターをそっと切らして頂いた。 翌日レンタカーを借りて、高速道路をひた走り福岡の街を通り抜けた。途中、右手すぐに飛行場、そして左手に福岡ドームが見えて来た。やがて眼前に迫って来る真新しい近代的な高層ビル群があった。ヒルトンホテルがこの一角にある。 車は前原のインターで高速を降り、近くにあるパン屋さんに寄った。吟遊詩人という名前が観光地図には載っている。だがこの吟遊詩人というパン屋さんはもうなく、一年前に人手に渡って違う名前で営業している筈であった。 7月15日、ワークショップ当日午前9時、会場になっているビルの一室に僕はいた。10時の参加者15名が集合した。ワークショップのテーマは、ストリートポートレイトだ。街で知らない人達に声をかけて撮らして頂こうというのがテーマである。 この公園にはその名の通り濠があって、その大きな濠に細長い島が浮かんでいて濠を横切れるようになっている。この島には森の様に沢山の木々が茂っていて格好の日陰を作っていた。この直射日光を避けられるロケーションが大きな救いだった。 僕はそこですれ違う人のほとんどに声をかけ、被写体になってもらった。外国人の旅行者、犬を連れた男性、孫を遊ばせているおじいちゃんとおばあちゃん、日本人の男性と長いブロンドの髪の女性とのカップル。サキソフォーンを恋人に吹いている男性、、。 撮影時間も終盤、最後にピンクのTシャツを着た5〜6歳の可愛い女の子とママが水遊びをしていたので声をかけた。女の子は初めこそ固い表情だったが、徐々に我々に慣れてきて、ついには水しぶきで顔もTシャツもずぶ濡れになり、我も忘れて満面の笑顔を浮かべてくれた。帰り道、参加者の何人かが、歩きながら僕に言った。「最後に撮った女の子が、ある意味今日の主人公でしたね!」 モデルになって下さった方々には、「空メールを頂ければ写真データをすぐにお送りしますと」言って僕の名刺を渡した。数日後何人かからメールを頂戴し、お礼の言葉と数枚のデータをお送りした。 写真家も被写体となって下さった方々も、双方が幸せになれるフォトセッションが成立し得るのだということを実感出来た、この日のワークショップだった。 我々は一人一人、一体どこに向かおうとして生きているのだろうか? 回答は安易に見つかりはしないのだろうが、ヒントはもしかしたら、すぐ近くにあるのではないかとふとポジティブな気持ちになった西への数日の旅だった。 |